1.研究の概要
大学教育に関する研究は、1984年に教育研究所が「大学教育に関する基礎的・理論的研究、武庫川学院の教育及び諸施策に関する調査研究を行なうこと」を目的として設立されて以降、この目的に則って調査研究を実施しており、研究所の中で最も長い歴史をもちます。これまで、2024年度から、教育研究所は他の研究所と統合されて「教育総合研究所」となり、これまでの大学教育に関する研究は、「大学教育部門」として位置づけられました。これまでの伝統と実績を活かしながら、時代と社会の要請に応じた新たな歩みを始めます。
この組織改編に伴い、これまでの地域・社会教育連携研究部門が、「大学教育部門」に組み込まれました。教育、福祉、医療関係の高度専門職養成を担う本学の教育課程においては、現場で直面する多様な社会課題に対する深い理解と柔軟な対応力が求められています。よって、調査研究を通じて、教育課程の深化と現場対応力の強化に資する視点を提示し、実践家の育成に貢献してまいります。
研究の推進に当たっては、基本的に科研費研究(B)クラスの外部資金を獲得し、共同研究として取り組んでいくこととしており、研究所のみならず、学外の研究者と共同し、大学全般、あるいは本学が直面している新たな課題に対して、学際的に、多角的に取り組んでいきます。また、これらの研究成果は、研究所が発刊する『研究レポート』を中心に、順次発表していくことにしていますので、ご覧いただき、ご意見を頂戴できれば幸いです。
本部門では、ただ今、次のような取り組みを行なっています。
1)特別研究プロジェクト「転換期の女子大教育」をテーマとする女子大学調査研究
2)JUSTEC(日米教員養成協議会)の年次大会の開催(2025年9月)
3)日米における女子大学の共学化と女子大学の意義に関する研究
4)LGBTQ+高齢者の生と性に関する調査研究;大学教育における実践家養成に向けて
この他、本研究所HPに「女子大学統計・大学基礎統計」サイトを設け、日本の女子大学を中心とする統計データを、
毎年更新しながら公開しており、新聞や雑誌等でもよく引用されています。
(2023年度より、研究員による個人研究として実施)
https://kyoken.mukogawa-u.ac.jp/statistics/
2.研究の紹介
(1) 現在進行中の研究
①2024年度より「転換期の女子大教育」をテーマとする特別研究プロジェクトを立ち上げ、学外の共同研究者3名と連携しつつ、研究活動をスタートさせました。第一段階の 作業として、全国の女子大すべての大学パンフレットを収集し、その質的分析を行いました(『研究レポート』55号掲載)。2025年1月からは、第二段階として、女子大学に
勤務する中堅・ベテランの文系研究者に対する聞き取り調査を実施しています。
②本部門では本研究所の国際的発信力を高めるためのプロジェクトに着手しています。具体的には、2025年9月(3日間)に本学において、JUSTEC(日米教員養成協議会)の年次大会を開催いたします(英語が基本言語)。大会初日の午後には、「外国にルーツをもつ子どもたちへの教育支援」をテーマとしており、一般市民に開いた基調講演及びパネルディスカッションを行います。
③日本においては、コロナ禍後、2023年頃より女子大学の共学化や募集停止が相次いでいます。日米における女子大学共学化の推移を把握するとともに、日本においてこのような状況になった要因を探るとともに、共学化するメリットとデメリットについて明らかにします。翻って、調査結果より、今日における女子大学の存立意義とサバイバル戦略について考察します。本研究は2025-27年度・科研費(25K05881)の助成を得て実施します。
④日本では、性の多様性に関する理解は進んでいますが、LGBTQ+高齢者に対する注目は限定的です。LGBTQ+高齢者に関する認識を深めることは、高齢者ケアの質向上に資するだけでなく、誰もが自分らしく安心して老いることができる社会の実現につながります。身体的・心理的・社会的ウェルビーイングの現状、ライフコース、歴史的・文化的背景の特徴を明らかにし、「誰ひとり取り残さない」超高齢社会の発展への貢献を目指します。本研究は、2025-2029年度・科研費(25K00730)の助成を得て実施します。
(2)これまでに実施してきた調査研究
「大学教育」に関する研究は、1984年に、教育研究所が開設されて以降、実施されてきました。1988年からは紀要『研究レポート』の発刊を始め、主たる調査・研究の成果は、この紀要を通して発表してきました。これまで大学教育研究として取り組んできた研究としては、次のようなものがあります。
① 大学授業および授業中の私語/無語行動」に関する調査研究
② 大学における臨床教育学の展開に関する研究
③ 夜間大学院に関する総合的研究
④ 女子大学の存立意義に関する調査研究(在学生調査、卒業生調査、保護者調査含)
⑤ 武庫川女子大学の短期大学に関する調査研究
⑥ 女子大学のサバイバルストラテジー:日米韓の比較研究
⑦ 女子大学へのトランスジェンダー受け入れに関する調査研究
上記が全てではありませんが、以上のようなものがあります。本学に関する調査研究は武庫川学院からの要請を受けて行なった研究です。
その他の研究の多くは、科学研究費の助成を受けて行なってきたものです(https://kyoken.mukogawa-u.ac.jp/subsidy/)。
紙面の都合上、これらの内容について述べることはできませんが、その調査研究成果の多くは、教育研究所(現・教育総合研究所)発刊の『研究レポート』に掲載されていますので、そちらをご覧ください(https://kyoken.mukogawa-u.ac.jp/report-list/)。
上記の共同研究をまとめ、『「女子大学の存立意義に関する調査研究」報告書』(2007年)、『武庫川女子大学「短期大学に関する調査」報告書』(2007年)、『武庫川学院の名称について:関連資料の収集と整理』(2011年)、『女子教育・女子大学 存続・拡充のための理論武装』(2018年)などとして冊子にまとめて、情報発信をしてきました。また、『夜間大学院―社会人の自己再構築―』(1999,東信堂)、『臨床教育学の体系と展開』(2002、多賀出版)として出版されたものもあります。
2024年度から本部門に組み込まれた「地域・社会教育連携部門」では、これまで次のような調査研究を実施してきました。
① 災害ソーシャルワークモデルの構築-福島のナラティヴ・ソーシャルワーク-
地震と原発事故という複合災害に見舞われた福島において、ソーシャルワーカーがどのように支援者支援を行ってきたかに注目し、語りと対話を重視するナラティヴ・アプローチが地域文化と融合することで、福島独自の災害ソーシャルワークモデルが形成・発展してきた過程を明らかにしました(2018-24年度、科研費研究(18K02091)の助成を得ました)。
② 在米被爆者の人生とその意味づけ
NABS(北米原爆被爆者の会)の協力のもと、高齢期の生活実態、移民の経緯、戦争および被爆体験に関する聞き取り調査など、多角的なアプローチを通じて在米被爆者の人生史を記録してきました。被爆者の高齢化が進行する中、戦争と被爆の記憶をいかに次世代へ継承していくかが喫緊の課題であり、記憶の継承という観点から包括的に捉え直しました。