「子ども家庭部門」は、2024年度の学内研究所の再編により教育総合研究所に一元化されたことより、旧)教育研究所「子ども発達研究部門」と旧)子ども発達科学研究センターを統合し、名称も変更しました。これを機に、研究領域を、子どもだけではなく、家庭を含めた子どもを取り巻く全体にまで拡充し、子どもの育ちや学びとそれらを取り巻く家庭・地域・社会との関わりをより包括的に捉えていきたいと考えています。
旧)子ども発達科学研究センターは2004年度から2008年度に行われた、独立行政法人科学技術振興機構社会技術研究開発センター(JST)の「脳科学と社会」研究開発領域 計画型研究開発「日本における子供の認知・行動発達に影響を与える要因の解明」の発達研究の基幹センターとして設立されました。JSTによる研究終了後も、科学研究費の支援をいただき、約20年にわたって子どもの発達研究を続けています。2025年度はこの研究を継続するとともに、我が国においては貴重な研究となっている追跡研究の解析に力を入れ、世代間の伝達に関する研究発信を国内外の学会において行う予定にしております。また、これまでに蓄積されたデータは、オープンアクセスによる共同利用を計画しています。
「子ども家庭部門」では、①乳児期から青年期までの発達コホート研究、②学校における子どもたちのこころの健康を知るためのツール開発、③教育現場との連携による子ども理解研究、④発達性協調運動症(DCD)や睡眠など身体性と神経発達症に関する研究、④不登校、いじめなど、子どもの問題に関する研究などを本研究所の他部門や国内外との共同研究として行っています。
また、各種講演会・研修会などにおける講演、メディア出演、出版などを通じて、子どもの発達や睡眠障害に関する啓発活動、地域・社会貢献も積極的に行っています。
子どもの発達研究に興味を持たれている学内外の学生・大学院生、研究者のみなさん、ぜひ一度、「子ども家庭部門」を訪ねてみてください。
研究内容のご紹介
① 子どもの発達コホート研究
2004〜2008年度独立行政法人科学技術振興機構社会技術研究開発センター(JST/RISTEX)「脳科学と社会」研究開発領域 計画型研究開発「日本における子供の認知・行動発達に影響を与える要因の解明」(通称:『すくすくコホート』“Japan Children’s Study)を引き継ぎ、2009年から科学研究費助成事業を受け、『武庫川チャイルドスタディ』『すくすくコホート三重』として縦断観察研究を継続しています。このような誕生時からの縦断的研究は我が国においては極めて少なく、今後もさまざまな成果が期待されています。
② 学校における子どもたちのこころの健康を知るためのツール開発
西宮市教育委員会との共同研究として、児童生徒のこころの状態を知るための指標作りをしてきています。小中学校の先生方と本学の心理社会福祉学部の教員、子ども家庭部門の教員からなる研究会を開催し、教育現場でのツール開発と子どもの支援方法についての検討を行っています。開発されたツールはこころの体温計という意味から「こころん・サーモ」と名付けられています。現在は西宮市内全小中学校で実施されています。
③ 教育現場との連携による子ども理解研究
文部科学省委託事業「子どもみんなプロジェクト」
(いじめ対策等生徒指導推進事業:脳科学・精神医学・心理学等と学校教育の連携の在り方)
本研究は、不登校、いじめなど、子どもの問題を、こころの発達の視点から解決する、子どもと先生を支えるものです。子どもの発達と教育についての基礎研究と実践活動を行ってきた10大学(大阪大学・金沢大学・浜松医科大学・千葉大学・福井大学・鳥取大学・弘前大学・兵庫教育大学・武庫川女子大学、中京大学)と自治体の教育委員会からなるプロジェクトです。武庫川女子大学ではその事務局も担当しました。プロジェクトは令和6年度をもって終了しました。
④ 発達性協調運動症(DCD)に関する研究
「不器用・ぶきっちょ」「運動音痴」「どんくさい」などと言われ、悩んでいる子どもやその保護者は少なくありません。一般に、「運動」は「身体」のことと思われがちですが、体格、筋力、関節の柔軟性、心肺機能などを除いて、身体の動きをコントロールしているのは、実は「協調(運動)Coordination」と呼ばれる脳の機能であるという理解が重要です。そして、この「協調」のという脳機能の発達の極端な問題が、発達性協調運動症 (Developmental Coordination Disorder: DCD)に該当します。さらに、近年の研究では、協調や感覚など「身体性」が神経発達障害の進展に重要な役割を果たしている事が強く示唆されてきています。DCDQやM-ABC3など国際的アセスメントツールの日本語版の開発や神経基盤、ニューロリハビリテーションなどについて、複数の国際・国内共同研究を行っています。中井教授は国際DCD研究学会の日本代表委員に選出され、また日本DCD学会を設立し、その理事を務めるとともに、2017年に第1回の学術集会を大会長として開催しました。
⑤ 子どもの睡眠とその問題に関する研究
睡眠は子どもたちの「脳」と「こころ」と「身体」の発達に非常に重要です。また、発達障害や不登校とも深く関連しています。不登校に陥った、睡眠障害の子どもたちの約90%が自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如・多動症(ADHD)などの神経発達症であったこと、新生児期や乳児期から睡眠リズムの脆弱性があること、幼児期の睡眠の問題の介入により日中の神経発達症の中核症状の改善、発達の促進があることなどを明らかにしてきました。
地域・社会貢献
4月2日は世界自閉症啓発デーと国連で定められ、その日から1週間の発達障害啓発週間はLight It Up Blue (LIUB)として世界中の主なランドマークが青くライトアップされます。2019年に学院80周年記念行事として第1回を開催、以後毎年、ブルーライトアップと市民公開講座を開催しています。第6回からは市民公開シンポジウムとしてリニューアルを行いました。本学のこの取り組みは、厚労省、文科省、LIUB JAPANに実施機関として登録され、世界的にも認識されています。以下はこれまでのテーマです。
第1回「発達障害の世界を感じてみよう!-発達障害の身体性と当事者研究-」Light It Up Blue MUKOJO! 〜武庫女を青く照らそう!〜
第2回「女性の発達障害
〜発達障害のある女性が一生を描ききるために必要なこと〜」
第3回「不登校と子どもの睡眠障害、そしてその背景にある発達障害」
第4回「限局性学習障害・発達性ディスレクシアの理解と支援」
第5回「DCD(発達性協調運動障害)〜見えているのに理解されない神経発達障害〜」
第6回「分かってほしい!話したくても話せない〜子どもの場面緘黙の理解と支援〜」
また、各種講演会・研修会などにおける講演、メディア出演、出版などを通じて、子どもの発達や睡眠障害に関する啓発活動、地域・社会貢献を積極的に行っています。